不動産所得の赤字は繰越して節税可能!個人・法人別のやり方とは

不動産所得の赤字は繰越して節税可能!個人・法人別のやり方とは

不動産所得の赤字は給与所得と損益通算することや翌年以降に赤字繰越をおこなうことで所得税や住民税などを節税できます。赤字繰越をおこなうためには青色申告が必要です。不動産所得で大きな損失が出た場合も繰越を上手に活用することで損失のカバーができます。


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不動産経営をしていて、不動産の大規模修繕や事故、空室などによって赤字になった場合、赤字を翌年以降に繰越することで節税できます。

本記事は、下記のような方におすすめです。
  • 不動産所得の赤字が見込まれる
  • 不動産所得で出た赤字を繰越したい
  • 赤字繰越の条件ややり方を知りたい

不動産投資の損失を少しでも減らすためにも、赤字の繰越について理解を深めましょう。
本記事では、不動産所得の赤字を繰り越して節税する方法を紹介します。

不動産所得とは

不動産所得とは、土地や建物などの不動産を貸付けして得られる所得のことです。
不動産所得は「総収入金額−必要経費」の計算式で求められます。

たとえば、家賃収入が年間に100万円あったとして、修繕費や損害保険料などの経費が30万円かかった場合、不動産所得は「100万円−30万円=70万円」です。

不動産所得に対しては所得税や住民税などの税金がかかります。

不動産所得の赤字の繰越とは?

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不動産所得の赤字の繰越とは、不動産所得が赤字になった場合に、そのマイナス分を翌年以降の所得と合算できる仕組みです。

たとえば、1年目に不動産所得が-100万円、2年目に不動産所得が+50万円だったとします。
2年目だけでみると、50万円の所得に対して税金が発生します。
しかし、1年目の-100万円の赤字を2年目に繰越した場合、2年目の所得は-50万円になるため税金は発生しません。
赤字繰越をおこなうと、課税対象となる所得を減らせるため節税効果が得られます。

赤字の繰越をおこなうためには、確定申告において青色申告が必要です。
個人が不動産所得の確定申告におこなう白色申告では、一定の場合を除き赤字の繰越ができないため注意しましょう。

不動産所得で赤字が発生する要因

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不動産所得で赤字が発生する要因として下記の三つが挙げられます。

・減価償却をおこなう
・不動産が災害や事故に巻き込まれる
・空室が増えた

減価償却をおこなう

不動産所得で赤字が発生する要因として、減価償却をおこなって経費が大きくなるケースがあります。
減価償却とは、不動産経営のために使用する大きな資産の購入費用を、想定される耐用年数で割って年ごとに支払う経費です。

減価償却は下記の計算式で求められます。
※平成19年4月1日以後に取得した場合

・定額法:固定資産の取得価額×定額法の償却率
・定率法:固定資産の未償却残高 × 定率法の償却率

※平成19年3月31日以前に取得した場合

・定額法:固定資産の取得価額 × 90% × 旧定額法の償却率
・定率法:固定資産の未償却残高 × 旧定率法の償却率

【参考】
国税庁-No.2100 減価償却のあらまし

国税庁-No.2105 旧定額法と旧定率法による減価償却

国税庁-No.2106 定額法と定率法による減価償却

不動産が災害や事故に巻き込まれる

火事や地震などの災害や事故・事件などに巻き込まれて、修繕費用やクリーニング費用などの出費が発生した場合、不動産所得が赤字になるケースがあります。

上記のような修繕費用も経費として計上できるため、不動産所得が赤字になった場合は翌年に赤字繰越できます。

空室が増えた

空室が増えると家賃収入が入らなくなるため、不動産所得が赤字になるケースもあります。

特にワンルームマンションの場合だと、空室が発生すると次の入居者が決まるまで収入が途絶えるため、建物の維持管理費の支払いのみが続くことで、赤字になる可能性が高くなります。

【個人向け】不動産投資の赤字に対する損益通算と繰越

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個人では青色申告ができないため、赤字繰越ができません。
しかし、個人でも開業届を税務署に提出して青色申告の手続きをおこなうことで、青色申告で赤字繰越ができます。

個人事業主の青色申告では、赤字を3年間繰り越すことが可能です。
赤字繰越をおこなう前には、本業の給与所得やその他の所得と損益通算をおこないます。

たとえば、1年間の不動産所得が-100万円、1年間の給与所得が300万円あったとします。
このケースだと、赤字と黒字を通算すると年間所得は+200万円です。
損益通算すると不動産所得の赤字は消えてしまうため、翌年以降に赤字を繰り越すことはできません。

しかし、損益通算で給与所得を減らすことはできるため、所得税や住民税などの節税はできます。

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個人と法人で繰越の内容が異なるため、参考までに紹介します。

法人が不動産投資の赤字に対する損益通算をおこなう場合も青色申告が必要です。
個人事業主の場合は赤字繰越ができる期間は3年ですが、法人の場合は10年間赤字繰越ができます。(平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年)

また、法人の場合は損益通算できる所得の区分が個人に比べて多くなります。
個人の場合だと、不動産所得と不動産売却による一時所得や雑所得などを損益通算することはできません。

しかし、法人の場合は法人税法によって会社の利益は一本化されるため、あらゆる所得と損益通算できます。

不動産所得の赤字を繰り越す場合の注意点

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不動産所得の赤字を繰り越す場合の注意点は下記の通りです。

・先に損益通算をおこなう必要がある
・青色申告の特別控除は繰越できない
・前年度の黒字と今年度の赤字を相殺すると税務調査のリスクが高まる

先に損益通算をおこなう必要がある

不動産所得の赤字を繰り越す場合は、先に他の所得と損益通算をおこなう必要があります。
会社に勤めて給料を受け取っている場合は、給与所得と不動産所得の赤字を損益通算し、そのうえで赤字が発生する場合のみ、翌年以降に不動産所得の赤字繰越が可能です。

青色申告の特別控除は繰越できない

不動産所得で赤字が発生しても、青色申告の特別控除は繰越できないため注意しましょう。

青色申告には、年間所得から差し引くことができる青色特別控除があります。
控除額は下記のように、簿記が簡易簿記か複式簿記かによって変わります。

・簡易簿記:10万円
・複式簿記:55万円(電子帳簿保存やe-Taxで確定申告をおこなう場合は65万円)

たとえば、不動産所得が年間100万円ある場合に、65万円の控除が適用されると課税対象の所得は35万円となり税金が安くなる仕組みです。

しかし、不動産所得が仮に年間10万円だった場合、65万円の控除が適用されて-55万円の赤字とはなりません。
このケースだと、年間10万円の不動産所得のみが控除されるため、年間所得は0円となります。
0円以下の所得に対しては、青色申告の特別控除が適用されないため注意が必要です。

前年度の黒字と今年度の赤字を相殺すると税務調査のリスクが高まる

不動産所得で赤字が出た年の前年が黒字だった場合、青色申告をしていることを条件に前年度の黒字と今年度の赤字を相殺して所得税の還付を受けることができます。
このように、過去の黒字と今年度の赤字を相殺することを「純損益の繰戻」といいます。

純損益の繰戻を受けるためには税務調査が必要です。
実際には机上の調査のみで終わる場合が多いですが、実地調査がおこなわれる場合もあるため注意しましょう。

まとめ

不動産所得の赤字は、給与所得と合算して損益通算ができます。
給与所得と損益通算しても不動産所得が赤字の場合、青色申告をおこなっていると翌年以降に赤字繰越も可能です。

赤字繰越をおこなうことで、翌年以降の所得税や住民税などの税金を減らせるメリットがあります。
不動産所得の赤字は節税に役立つため、確定申告時に赤字繰越を忘れず行いましょう。

また、個人でも開業届を提出することで青色申告ができるため、不動産所得で赤字が見込まれる場合は青色申告の手続きをおすすめします。