中古マンションを経営していくうえで、知っておきたい知識は「減価償却」です。「減価償却」という言葉は知っていても、馴染みのない言葉のため、内容を理解していない方も多いでしょう。
本記事では減価償却の目的や具体的な計算方法、メリット・デメリットや注意点を解説します。これから中古マンションの経営を考えている方は、ぜひ最後まで読んでください。
中古マンションにおける減価償却の概要
中古マンションにおける減価償却を以下2つの視点から解説します。
・減価償却の目的
・減価償却の方法
減価償却の目的
減価償却の目的は、経年で価値が減る固定資産の取得費用を耐用年数に応じて配分して、その年ごとに適切な費用を計上することです。
例えば、1億円で新築マンションを購入したとしましょう。新築マンションは数十年使えるため、マンションの取得費用を1年で計上することは適切な経費処理とは言えません。
また取得費用を1年で計上すると、多額の赤字が出ます。多額の赤字が出ると決算書の見栄えが悪くなり、金融機関から融資を受けにくくなる可能性が高いです。
減価償却をおこない、取得費用を各年に配分すると、毎年の正しい利益が求められます。
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法は「定額法」と「定率法」の2つです。ただし国税庁によると2016年4月1日以降に取得したマンションやマンション設備の減価償却は、定額法のみでおこないます。
そのため本記事では、定額法の計算方法のみ解説します。定額法とは、毎年同じ金額を計上する方法です。定額法の計算式は下記を参照してください。
毎年の償却額=取得価額×定額法の償却率
償却率は、国税庁の「減価償却資産の償却率表」に耐用年数別に記載されています。耐用年数47年のマンションを1億円で購入した場合の償却額をシミュレーションしてみましょう。
前出の資料によると、耐用年数47年の償却率は「0.022」のため、物件購入1年目の償却額は「220万円(1億円×0.022)」です。
中古マンションの耐用年数
耐用年数とは、国で定められている、減価償却資産を使用できる期間のことです。減価償却資産には、耐用年数が定められています。耐用年数が知りたい場合は国税庁が公表している「主な減価償却資産の耐用年数表」をご確認ください。
国税庁が公表しているデータは、あくまでも新築新品で購入した減価償却資産の耐用年数です。中古マンションの耐用年数を求める場合は、下記2つの場合で計算方法が異なります。
・耐用年数が全て経過している中古マンション
・耐用年数の一部が経過している中古マンション
耐用年数47年の中古マンションを購入したケースでシミュレーションしてみましょう。耐用年数が全て経過している中古マンションの耐用年数の計算式は、「法定耐用年数×20%」です。
耐用年数が全て経過している中古マンションの耐用年数は、9年(47年×20%=9.4年)となります。※1年未満は切り捨て。
耐用年数の一部が経過している中古マンションの耐用年数の計算式は、「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」です。
経過年数10年のマンションを購入した場合の耐用年数は、39年{(47-10)+10×20%=39年}となります。※1年未満は切り捨て。
減価償却の計算を始める日
減価償却の計算を始める日は「事業の用に供した日」です。減価償却資産を購入した日ではないため注意しましょう。
国税庁によると事業の用に供した日とは、減価償却資産が本来の目的で使用された日です。つまりマンションでは、建物を購入した日やリフォームが完了した日ではなく、入居者の募集を始めた日となります。
減価償却のメリット
減価償却をおこなうメリットは以下の2つです。
・節税になる
・手元にお金が残る
節税になる
減価償却の最も大きいメリットは、節税になることです。減価償却では、高額になりがちなマンションの購入費用を数年から数十年にわたって計上できます。
そのため、初年度以降の利益も少なくなるため、支払う税金を抑えることが可能です。
手元にお金が残る
減価償却には、手元にお金が残るメリットもあります。減価償却費は支出を伴わない経費です。そのため減価償却費の活用で、実際に支出を伴わなくても税金額の負担を軽減することが可能です。支出を増やさず節税ができるため、手元に残るお金を増やすことができます
一方で支出を伴う雨漏りの修理といった修繕費は経費に計上でき、節税につながりますが、手元からお金が出ていきます。そのため支出が伴う経費を多くすると、税負担は軽くなりますが、手元にお金が残りません。
減価償却のデメリット
減価償却のデメリットは以下の2つです。
・土地の減価償却はできない
・会計処理に手間がかかる
土地の減価償却はできない
土地の購入費用は減価償却できません。土地は年数が経っても、面積が小さくなったり機能を損なったりすることがないからです。
そのため建物と土地を購入したケースで、土地での比率が大きいと減価償却費が小さくなり、節税効果が小さくなります。
会計処理に手間がかかる
会計処理に手間がかかることも減価償却のデメリットです。仮に複数の物件を所有していると、物件ごとに減価償却を行わなければなりません。
また税法は頻繁に改正されるため、常に正しい情報のアップデートが必要です。
減価償却の注意点
減価償却の注意点は、下記の2つです。
・建物の取得価額がわからないとき
・すぐに経費計上できる修繕費と減価償却する修繕費
建物の取得価額がわからないとき
中古マンションを購入すると物件によっては、建物と土地の価額が合算されており、建物の取得価額がわからないケースもあります。
建物の取得価額がわからないと、正確な減価償却がおこなえません。売買契約書に建物価額が記載されていないときは、下記2つの方法で建物の取得価額を割り出しましょう。
・消費税から逆算する
・固定資産税評価額から建物の取得価額を割り出す
消費税から逆算する
建物価額は消費税から逆算できます。消費税は建物だけにかかり、土地にはかかりません。そのため消費税がわかると、建物の価額を逆算できます。
例えば土地・建物の取得価額の合算額が1,000万円で、消費税が50万円だったケースを考えてみましょう。※消費税率は10%と考えます。
消費税は建物にだけかかるため消費税を元に逆算すると、建物の取得価額は500万円(50万円÷10%)とわかります。
固定資産税評価額から建物の取得価額を割り出す
消費税がわからないときは、固定資産税評価額から土地と建物の割合を明らかにしましょう。固定資産税評価額は、各市町村や東京都主税局から毎年4〜5月に届く「固定資産税納税通知書」で確認できます。
固定資産税納税通知書が手元にないときは、固定資産評価証明書で確認しましょう。固定資産評価証明書は、各市町村・都の窓口や郵送の2つの方法で取得できます。
申請には、手数料や本人確認書類が必要なため、詳しくは最寄りの担当窓口に確認してください。
すぐに経費計上できる修繕費と減価償却する修繕費
修繕内容によっては、すぐに経費計上できない修繕費もあります。下記のような建物の価値を新築の状態に戻したときの修繕費は、すぐに経費計上できます。
・雨漏りの改善
・台風や地震により壊れた箇所の修繕
一方で、下記のような建物の価値を高める修繕は、耐用年数に合わせて減価償却が必要です。
・建物の耐震工事
・集客力を高めるため最新設備の導入
上記のような支出を「資本的支出」といい、資本的支出は新築時に耐用年数に合わせて減価償却をおこないます。
【参考】No.5405 資本的支出後の減価償却資産の償却方法等-国税庁
修繕費は、支出の目的によって「一括で経費計量すべき修繕費」と「減価償却する修繕費」の2つに分かれます。修繕費が生じた年は、これら2つの修繕費を間違えて計上しないようにしっかりと処理しましょう。
まとめ
本記事では減価償却の目的や具体的な計算方法、メリット・デメリットや注意点を解説しました。
減価償却費を計算するには、建物ごとの耐用年数や償却率を個別に求めなければならず手間がかかります。
減価償却は、節税につながり手元にお金を残せる点がメリットです。一方で、土地は減価償却できない、会計処理に手間がかかる等のデメリットがあります。
中古マンション経営において「減価償却」は必須の知識です。これから中古マンションの経営を考えている方は、本記事を参考に減価償却についての知識を深めてください。