家賃滞納者への対応方法|支払いまでを5つのステップで紹介

賃貸物件を持つオーナーにとって、家賃の滞納は頭の痛い問題です。家賃収入が減ってしまうばかりか、支払いをしてもらうまでに多くの労力の時間を費やすことになります。 そこで今回は、家賃の滞納が発生したときの適切な対処法と、滞納を未然に防ぐためにオーナーが知っておくべき考え方を紹介します。


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家賃滞納が起こる理由

入居者が家賃を滞納してしまう理由は、金銭的・経済的な問題ばかりではありません。大きく分けると、以下の3つの理由に大別できます。

・うっかり支払いを忘れていた
・収入が激減してしまった
・支払うつもりがない

上記以外にも理由はさまざまですが、故意に支払いをしない場合を除いては何らかの理由で「口座の残高が家賃を下回る」ことによって発生します。

家賃滞納の理由について、見ていきましょう。

うっかり忘れていた

家賃滞納の多くは何かの事情で「口座残高が不足して引き落としできない」状態に陥っています。しかし、すべての滞納者が金銭的に困窮しているとは限りません。

旅行などで外出しているために銀行に入金を忘れたような「うっかりミス」の場合もあります。

一時的な支払い忘れであれば、督促の電話をすることでスムーズに入金されるケースが大半です。

収入が減ってしまった

何らかの事情で収入がなくなってしまい、口座残高不足に陥るケースです。

・会社の資金繰りの悪化で給与の支払いが遅れる
・事故や病気で会社を休むことで残高が足りない
・景気の悪化で個人事業主の収入が激減した

会社員の場合は業務上のケガや病気なら「労災保険」、業務外のケガや病気であれば健康保険から「傷病手当」が支給されますが、支給金額は給与額の67~80%程度です。

■傷病手当の1日あたりの金額
支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額÷30×2/3

■労災保険の休業捕保障の1日あたりの金額
休業特別支給金とあわせて給付基礎日額の80%

満額が支給されないことに加えて、支給までのタイムラグがあることも注意点です。傷病手当は請求してから実際に請求されるまで1ヶ月以上かかる場合があるほか、労災保険も支給までの日数は一定ではありません。

「収入減」「支給までのタイムラグ」のふたつの理由から口座のお金が減り、一時的に家賃を払えなくなる可能性があるのです。

支払うつもりがない

うっかり忘れていた場合や金銭的に支払えない場合は、入居者側から管理会社に相談してくることが一般的です。

一方で、故意に支払わない悪質なケースでは居留守を使われて連絡がつかないばかりか、すでに行方をくらませていることも考えられます。

滞納の大半は「うっかりミス」「金銭的なトラブル」などの理由で一時的に支払いが遅れているケースです。そのため、大家や管理会社側で入金遅れを確認した時点で連絡することで、すみやかに入金されることが多いです。

家賃滞納者が行方をくらませた場合は、すみやかに連帯保証人に連絡して家賃滞納分の支払いと部屋の存続についての相談が必要です。場合によっては連帯保証人を交えて契約者と話し合い、部屋の明け渡しを要求します。

いずれの場合でも、家賃の滞納にはスピード感をもって対応することが大切です。

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家賃滞納者への対応前に決めておくこと

家賃滞納者への対応で混乱することのないよう、オーナーはあらかじめ方針を決めておくことをおすすめします。対応方針は、主に以下の2とおりがあげられます。

1. 賃貸借契約の継続
2. 賃貸借契約の終了

空室ができると次の入居者が見つかりにくいという場合は、いったん契約の継続を検討しても良いでしょう。ただし放置するのではなく、滞納している賃料の回収を行う必要があります。督促に応じないようであれば、賃貸借契約の終了を視野に入れなくてはなりません。

また、契約の継続を検討せず、一定期間の家賃滞納が生じた時点で賃貸借の契約終了を考える方法もあります。

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家賃滞納者の強制退去について

家賃滞納者に支払いの意思がない場合や、何度も家賃滞納を繰り返すようであれば、強制退去もやむを得ないでしょう。ただし注意しなくてはならないのが、強制退去に至る相応の理由がなければ実行は難しいという点です。

ここでは、家賃滞納者の強制退去を検討するときに押さえておきたい3つの条件と、実行が難しいケースを紹介します。

強制退去の3条件

家賃滞納を理由とした強制退去は、以下にあげる3つの条件を満たしている必要があります。

1. 家賃滞納の期間が3ヶ月以上である
2. 賃借人に支払いの意思がない
3. 貸主と賃借人の信頼関係が失われている

家賃を滞納している期間が、最低でも3ヶ月以上なくては強制退去させることはできません。法的には具体的な日数を定めてはいませんが、長期間の滞納と判断されるために、3ヶ月以上は滞納が続いている状態であることが求められます。

賃借人(入居者)に支払いの意思があるかどうかも重要です。話し合いで支払い意思があると判断できたり、保証人が立て替えたりした場合は、強制退去は難しいでしょう。支払い意思の有無は、具体的な支払予定日をいえるか、高圧的な態度で誤魔化そうとしていないかなどで判断しましょう。

上記2つの状態が長く続いていたり、オーナーとの間にすでに信頼関係がなかったりする場合は、強制退去を求める相応の理由となります。

強制退去が難しいケース

強制退去はオーナーの権利ですが、実際には簡単に実行できるものではありません。以下のようなケースでは、強制退去を求めることは難しくなります。

・家賃の滞納が一時的なものに過ぎない
・貸主側の権利濫用と認められた

先月分の家賃を滞納されている程度では、なんらかの事情で一時的に支払いが遅れている可能性があります。お互いの信頼関係が崩れたとはいえず、強制退去の条件にあてはまるとはいえません。

オーナーの行動によっては、強制退去が難しくなる場合もあります。滞納された家賃分を回収しようと無断で私物を売り払ったり、追い出すために鍵を交換したりすると、貸主側の権利濫用と判断され、オーナー側が不利となってしまいます。

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家賃滞納者への対応の流れ

家賃の未納が発生した場合は、できるだけ早く入居者に連絡をとらなければいけません。初動が遅れると未納月数が大きくなり、支払いできない可能性が上がってしまうためです。

家賃の滞納が発生したときの対応の流れは以下のとおりです。

1.電話・訪問での支払督促
2.本人・連帯保証人に督促状の送付
3.内容証明郵便の送付
4.裁判

ここでは、それぞれの対応の流れについて紹介します。

1.電話・訪問での支払い催促

家賃滞納が発生した際に、最初にやるべきステップは「利用者への通知と交渉」です。数日の支払い遅れが初めて確認された程度であれば、口頭・電話・手紙で「払い忘れている」旨を連絡するだけで即座に入金されることがあります。

何度か滞納が発生しているのなら、より強い表現の書類を送付して「注意喚起」に切り替えることも検討しましょう。

ただし、連絡を取る際は以下のような「法律で禁止されている行為」を行わないようにしましょう。

■取り立ての際の禁止行為の一例
・正当な理由がなく、社会通念に照らし不適当と認められる時間帯に電話・FAX・訪問すること
・正当な理由なく、債務者などの勤務先その他の居宅以外の場所に電話・FAX・訪問をすること
・張り紙や立て看板などで借入の事実を債権者意外に明らかにすること

参考:賃金業法

2.本人・連帯保証人に督促状の送付

滞納している入居者に連絡をとっても入金が確認されない場合、法的な手続きを意識した内容の書面で督促状を送る必要があります。

督促状に記載するべき内容は以下のとおりです。

・支払期限
・振込先
・請求額
・支払わなかった場合の対応

支払期限は督促状の送付日から1週間程度で設定し、滞納分の家賃総額に加えて遅延損害金を足した金額を記載します。

期限内に支払いがない場合に備えて「訴訟などの法的措置を取り、その際は弁護士費用と遅延損害金も請求する」旨を記載しておくことを忘れないようにしましょう。

連帯保証人がいる場合は必ず連帯保証人にも送るようにします。連帯保証人から入居者に連絡することで支払いに応じることもあるためです。

それでも入居者が支払いに応じない場合は、連帯保証人に対して滞納分の家賃の支払いを請求します。

3.内容証明郵便の送付

督促状を送っても支払いがないときは「内容証明郵便」で督促状を送ります。

前回までの督促状の内容に加えて「受け取り拒否の場合に備えて普通郵便でも発送したこと」「今後一切の連絡は弁護士あてにすること」を記載します。管理会社の名前ではなく、弁護士に依頼して弁護士の名前で送ると効果的です。

内容証明郵便を使うことで「家賃滞納者に対して滞納分の支払いを請求している」事実を証拠として残すことができます。

後の裁判では貸主と借主の信頼関係がどれだけ破綻したかが重要になるため、「借主の滞納の事実」と、「それに対して貸主がどのように催促したか」を記録しておくことが大切です。

4.裁判

内容証明郵便による督促状を送っても支払いがない場合、以下の内容を記載した「契約解除通知」を内容証明郵便で送付します。

■契約解除通知に記載する内容
・賃貸借契約を解除する旨
・期限を定めて物件を明け渡すこと

契約解除通知によって立ち退きがされない場合は、裁判によって賃料などの金銭支払い・滞納者に立ち退きを求める手続きに移行します。

5.強制執行

裁判によって勝訴判決が出ることで、滞納者を強制的に立ち退かせることができます。強制執行を進めるためには、以下の3つの書類を揃える必要があります。

・債務名義
・執行文
・送達証明書

債務名義とは「貸主の明渡請求権を証明する書類」確定判決のことです。

判決が出た裁判所で「判決が強制執行できる」ことを証明する執行文と、確定判決が借主に送付されたことを証明する送達証明書を付けてもらうことで強制執行手続きが可能になります。

強制執行の申し立ての2週間後には「明け渡しの催告」を行います。

明け渡しの催告でも滞納者が立ち退かない場合は、4週間後を目途に確定裁判の内容に従って強制執行を「断行」します。執行官が荷物すべて運び出し、鍵を交換して明け渡しは完了です。

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家賃滞納者を出さないためには

紹介したとおり、家賃を滞納した人からお金を回収するのは、非常に長い時間と労力が必要です。家賃の滞納が起こらず、毎月スムーズに入金されるのがオーナーの理想でしょう。

この項では、家賃の滞納者を出さないための対策について紹介します。

契約前の入居審査は慎重に行う

家賃滞納などのトラブルを回避するためには、入居審査が重要です。空室対策のためと契約前の入居審査を簡易的なものにしている場合は、改めて条件を見直してみましょう。

管理会社が質の良い入居者を入居させているのかも、確認する必要があります。たとえば物件の家賃が、入居者の収入に見合っているかをきちんと審査しなければ、入居後に安定した家賃回収は期待できません。

近年はインターネットや郵送を利用した遠方からの契約も珍しくありませんが、審査も書類上のみ、電話のみで行っている管理会社は心配が残ります。遠方でも、最低一度は対面やオンライン面接で顔合わせを行って入居者を慎重に審査してくれる管理会社を選ぶべきです。

家賃保証会社を利用する

万が一のために、家賃保証会社を利用する方法もおすすめです。家賃の建て替えだけではなく、滞納が生じたときには入居者への督促や回収を代行してくれます。

また、保証を行うには契約前に支払い能力などを審査する必要があるため、会社側で慎重な入居者審査が行われるところも大きなメリットです。

連帯保証人は必ず付ける

オーナーは万が一のときのために、入居者に連帯保証人を立てるよう求めることができます。連帯保証人は入居者の両親や祖父母、兄弟などが一般的です。家賃が滞納されたときは連帯保証人に請求できるため、損失を免れるでしょう。

家賃保証会社を利用する場合、会社の規定で連帯保証人が義務付けられている場合もあります。

入居者と日頃からコミュニケーションをとる

入居者とのトラブルを未然に防ぐためには、普段から入居者とコミュニケーションを取ることが大切です。

日常生活であいさつを交わすことはもちろん、問い合わせを受けた際には丁寧に対応することでお互いに信頼関係を築けます。

管理会社を利用している場合は丸投げにしがちですが、定期的に所有する物件に顔を出してみることをおすすめします。

信頼関係ができていれば、万が一のトラブルの際も話し合いで解決できることもあるでしょう。

こまめに入金確認をしておく

滞納に気付かずに放置しておけば滞納が2ヶ月、3ヶ月と膨らんでますます回収できない状況になる可能性があります。

こまめに入金確認を行えば、家賃滞納額が小さく回収しやすいうちに動くことができます。家賃の支払い日には必ず入金確認を行うという基本的な作業が、長期滞納を防ぐ有効な手段になるのです。

支払いを自動引き落としにする

家賃滞納が生じる原因のひとつが、支払い方法を振り込みのみにしていることです。単身者など、振り込み手続きをする時間がを確保しにくい入居者の場合、支払う意思があってもうっかり忘れてしまうケースがあります。

このような入居者への対策として、家賃支払いを口座からの自動引き落としにする方法が有効です。中には自動引き落としにしても残高不足で支払ってもらえない場合もありますが、クレジットカード払いも取り入れると防げるでしょう。

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そのほか家賃滞納に関する疑問

家賃滞納が生じたときは、損失が少ないうちに早急に対応することで問題が解決しやすくなります。しかしいざ対応しようと思っても、費用が生じたり入居者との連絡がつかなかったりと、思うように進められないケースは多いものです。

最後に、多くのオーナーが家賃滞納への対応で抱える疑問や不安についての回答と、解決策を紹介します。

強制退去の費用は請求できるのか?

強制退去は、弁護士への依頼など何かと費用が生じてしまいます。オーナーからすると家賃を滞納されたうえに余計な費用までかけさせられては、二重三重の損失になりかねません。

強制退去など家賃滞納者への対応にかかった諸費用を、賃借人に請求すること自体は可能です。しかし金銭的な理由で家賃を滞納していた場合、破産後の取り立てはできないため、回収は期待できないでしょう。

また、すべての費用を請求できるわけではない点にも注意してください。弁護士費用など一部の費用は対象外となります。

入居者が行方不明の場合は?

入居者が行方不明で連絡がつかない場合は、どのように対処すべきか困惑するものです。このような場合も、まずは前述の家賃滞納者に行うケースと同じ流れで強制退去の手続きを進めます。

具体的な流れは、以下のとおりです。

1.入居者に電話連絡
2.訪問
3.連帯保証人への連絡
4.裁判所で公示による意思表示の申し立て
5.強制退去の手続き

万が一、裁判に発展しても、賃借人が裁判に出席しなかった場合は勝訴となることが多いため問題はありません。入居者が行方不明でも、最終的には強制退去の手続きを進められます。

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まとめ

今回は、家賃滞納が発生したときの対処方法と、滞納を発生させないためにオーナーが知るべき心構えを紹介しました。

滞納が発生したとしても、すぐに法的手段を執行できるわけではありません。手続きの流れを知り、正しい手段で家賃を回収しましょう。