賃貸経営における「更新料なし」のメリット・デメリットを解説

入居者が退去してしまうと、原状回復費などの出費が発生するうえ、空室期間中の家賃収入が途絶えるなど賃貸経営が難しくなってしまいます。退去者が増える理由のひとつに更新料の問題があり、近年では更新料をなくす大家も増えているようです。 この記事では、更新料をなくすメリットやデメリットを解説するとともに、入居者に長く住み続けてもらうコツについて紹介します。


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更新をきっかけに退去してしまう入居者は増えている


通常、賃貸物件は2年に一度、更新時期が訪れます。近年では、卒業や転勤といった人生の節目に合わせての退去ではなく、更新時期を理由に退去する人が増えているといわれます。

まずは、近年なぜ更新よりも退去を選ぶ人が増えているのか、その理由について説明します。

更新料の支払いに不満を感じている入居者

更新料は、家賃の0.5~2ヵ月分ほどを目安に、物件の更新に合わせて入居者から支払われるものです。通常の家賃に加えて更新料も支払うことになるため、入居者にとって更新月の出費は大きくなります。

たとえば、家賃7万円の賃貸物件で更新料が2ヵ月分に設定されているとすると、更新月の支払いは21万円にもなります。それだけの費用がかかるなら、新しい物件へ引っ越したいと考える入居者がいても不思議ではありません。

UR都市機構の「賃貸住宅居住者に聞く 引っ越しに関する調査」によると、引っ越し理由の第3位は「住んでいる家の契約更新が近づいたため」となっています。入居者にとって更新料の支払いは、退去理由にもなる大きな負担だといえます。

出典:新生活、春の引っ越しシーズン本番!賃貸住宅居住者に聞く 引っ越しに関する調査|PR TIMES

敷金や礼金をとらない物件が増えている

地域によって事情は異なりますが、入居者が賃貸物件を契約するときには敷金や礼金、あるいは保証金といった初期費用が発生します。

敷金と礼金はそれぞれ家賃2ヵ月分、保証金は100万円とかつてはかなり高額だった初期費用ですが、最近は減額傾向が続いています。敷金1ヵ月分のみ、あるいは敷金・礼金ともにゼロといった物件も珍しくなくなり、新しい物件への転居のハードルが低くなっているのです。

国土交通省の「平成26年度住宅市場動向調査報告書」のデータで見れば、近年の更新料の有無は増減しているものの、契約後に更新料を廃止するオーナーは徐々に増えているといわれています。

出典:平成26年度住宅市場動向調査報告書|国土交通省

若い世代ほど更新よりも転居を選びやすい

現代では、ライフスタイルの変化に合わせて、服を着替えるように家を住み替えるという考え方も増えてきています。

特に学生や単身者は荷物が少なく身軽なため、短期間で転居するケースも多いです。また、子育て世代においても、「より良い教育環境を求める」「子どもの人数に合わせる」といった事情から、賃貸物件の転居を繰り返すケースが見られます。

同じ物件に長く住んでもらうためには、住み続けることのメリットをアピールする必要があります。そのためにも、更新料の減額や廃止は検討されるべき問題といえるでしょう。

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更新料をなくすメリット

更新料をなくして恩恵を受けるのは、物件で暮らす入居者です。

仮に家賃や間取りが似ている複数の物件がある場合、負担の少ない更新料なしの物件を選ぶ人は多いでしょう。入居希望者が増えれば、大家は優良入居者を選びやすくなります。さらに、入居者側も更新料を理由に退去を考えることはなくなるため、長く住み続けてもらえる可能性が高まります。

入居者に選ばれ、長く住み続けられる物件になることは大家にとってもメリットは大きく、安定した賃貸経営の実現が期待されます。

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更新料をなくすデメリット

更新料をなくすデメリットは、それまで得てきた収入源のひとつがなくなることでしょう。

たとえば、家賃が7万円で更新料が家賃2ヶ月分の物件があります。それまで2年ごとに得てきた14万円がなくなるので、10年間で70万円もの損失を被ることになります。

総収入が減るときに問題となるのがキャッシュフローです。ローンの返済や物件の修繕費などから経営が厳しくなったり、家賃を下げたくてもなかなか下げられなかったりといった問題が生じる可能性があります。

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「更新料なし」空室対策として有効か

賃貸物件の更新料なしのメリット、デメリットを踏まえ、更新料は空室対策になるか解説していきます。

長期的に見れば経営の安定につながる

賃貸物件の更新料をなくすと、総収入は減ってしまいます。しかし、更新料をきっかけに引っ越しを考える入居者を引き留めることができるため、空室率を減らし、安定した経営を行う有効な手段です。

更新料を現状維持した場合、更新をきっかけに入居者との賃貸契約が終わると、そのたびに原状回復を行わなければなりません。

原状回復費も発生しますし、入居者募集のための広告費もかかります。退去から次の入居者が決まるまでの期間は空室となり、家賃収入もありません。

長期的な視点で考えた場合、更新料をとるより、同じ入居者に長く住み続けてもらう方が賃貸経営の安定につながります。

キャッシュフローの問題は改善策でカバーする

先述したように、更新料をなくすことでキャッシュフローが悪化し、ローンの返済が難しくなる可能性はあります。しかし、キャッシュフローの悪化は、いくつかの改善策を実施することでカバーすることができます。

キャッシュフロー改善のポイントは、「収益を増加させる」「支出を減少させる」のふたつです。

収益増加のためには、ペット可の物件にするなど、物件に付加価値を付けることで空室を防止する、収支改善のために専門家からアドバイスをもらうなどが考えられるでしょう。支出の減少策としては、管理会社の変更による管理費用の削減などが考えられます。

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キャッシュフローの改善策

更新料をなくすことによるキャッシュフローの問題は、キャッシュフローの改善策を実施することでカバーできると説明しました。どのような改善策があるのか、収入を増やすための改善案、支出を減らすための改善案に分けて、もう少し詳しく見ていきましょう。

【収益増加】経営状態の見直し

収益増加の改善案としては、まず経営状態の見直しがあげられます。収益が伸び悩むのは、何かしらの理由があるためです。何が収益の妨げになっているのか、考えられる原因から、現状を当てはめてみましょう。

たとえば、収益の伸び悩みにつながる要因として考えられるのが、入居条件と入居希望者のニーズの乖離(かいり)です。周辺にあるワンルームやファミリー向け物件など、同じような物件と比較して、家賃や初期費用が割高だと入居者がなかなか見つからない原因になります。

収支の観点から家賃を据え置いたまま経営するケースもありますが、相場より割高な状態になることで空室が続くと、かえって安定した収入を得られにくくなりますので定期的に見直しを行いましょう。

キャッシュフローの改善が目的ですので、すべてのニーズに応えるのはなかなか難しいですが、条件を入居希望者のニーズに近づけることで、空室率が改善する可能性があります。

ニーズと入居条件の把握のほかにも、物件の広告戦略の現状も確認しておきましょう。ニーズの高い条件に合わせても、物件情報が適切に宣伝されず、物件情報をチェックする人が少なければ、それだけ入居者獲得の機会を失うことになります。

物件をしっかりアピールできているか、広告戦略の見直しも必要です。

【収益増加】魅力的な物件づくり

周辺にある競合の物件よりも選ばれるためには、入居者にとって魅力的な物件に変えるのがポイントです。

一般的に賃貸物件は、古いものより新しいものが選ばれる傾向にあります。しかし、短いスパンで物件を建て替えることは厳しいですし、常に最新の設備を取り入れるのはコスト的な面で難しいですよね。

ただ、古い物件であれば、修繕やリフォームなどの手を加えることで新たな価値や新たな機能を付与し、選ばれやすい物件を目指しましょう。

たとえば、空調設備の設置、セキュリティシステムや防犯設備の導入、インターネット環境の整備などが付加価値としてあげられます。

ペットと一緒に暮らしたい人をターゲットに物件をペット可にしてフローリングを整備したり、学生や単身者をターゲットに家具付き物件にしたり、ニーズに合わせた価値をつくりあげるのも良いでしょう。

魅力的な物件になれば、入居を希望する人も増え、空室も改善される可能性があります。ただし、収益増加のために修繕やリフォームに費用をかけすぎるのも問題です。

魅力的な物件づくりを優先しすぎると、かえってキャッシュフローが悪化することもあります。ニーズに合わせた物件づくりも重要ですが、バランスよく設備を整えることが大切です。

【支出減少】管理会社の見直し

賃貸経営では、物件の管理を不動産管理会社に依頼していることがほとんどでしょう。

自身で管理している場合は費用面での見直しは必要ありませんが、管理会社を利用しているなら、管理会社自体の見直しもキャッシュフローの改善策として考えるべきです。

現在契約している管理会社が適切であるかどうかは、現状の固定費とサービスを他社と比較することで行います。長期にわたり管理会社に依頼している間に、他社で新たなサービスが展開されているなど、状況が以前と大きく変わっている可能性があるためです。

他社と比べて固定費が高くないか、サービスや費用の面で損をしていないかチェックします。費用面だけでの比較は、必要なサービスが考慮されていないこともありますので、サービス面も含めて比較検討しましょう。

管理会社の見直しを行い、必要なサービスが十分に提供され、かつ以前よりも固定費を抑えられれば、支出の削減につながります。

【支出減少】ローンの繰り上げ返済

賃貸経営の支出を減少させる方法には、ローンの繰り上げ返済もあります。繰り上げ返済とは、当初予定していた返済期間よりも返済期間を短くするために、返済額や返済のペースを上げることです。

繰り上げ返済を行えば、当初より返済期間が繰り上げられるため、短縮した期間の利息の返済を削減できます。

直近の負担が大きくなるため、一時的にキャッシュフローが悪くなる可能性はありますが、長期的に見れば全体的な支出の抑制が可能です。

ローンを早期に返済できれば、新たな融資も受けやすくなり、新たな物件の購入資金を増やすこともできます。経営の拡大を考えるなら、ローンの繰り上げ返済も積極的に考えたいところです。

ただし、前述したように一時的にキャッシュフローが悪くなることもありますので、直近のキャッシュフローの問題がないか、シミュレーションも念入りに行いましょう。

シミュレーションを実施すれば、短期的な目線からも、長期的な目線からも、その施策が問題ないか確認できます。

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更新料やキャッシュフローの問題は専門家に相談

ここまで、長期的な視野で考えるなら、更新料をなくして、キャッシュフローの改善を図った方が良いと説明してきました。しかし、「更新料をなくしても退去者が減らない」「適切なキャッシュフロー改善策がわからない」などの課題が出てくるかもしれません。

賃貸経営における問題は更新料だけではありませんので、経営改善やキャッシュフローの安定化が思うように図れないときは、専門家に相談するのがおすすめです。

また、不動産関連のツールやサービスも、物件ごとに改善策を打ち出すのに役立ちます。

「イエリーチ」なら、登録するだけで保有物件の収支状況の確認、収支シミュレーションが可能です。視覚的に状況を把握できるため、空室対策やキャッシュフロー改善に生かせます。

物件の収支状況の把握に、まずは「イエリーチ」を活用してみてください。

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まとめ

近年、若い世代を中心に、家の住み替えはより気軽なものとなっています。

更新料は入居者にとって大きな負担となるため、退去のきっかけになることも多いです。そのため、更新料をなくすことが退去予防や空室対策につながる場合もあります。

ただし、賃貸経営ではすべてのケースで同じ対策が有効とは限りません。

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