マンションの改修工事は、目的に応じて修繕費と資本的支出に仕訳しなければなりません。
マンション売却前に改修工事をし、なるべく高額で売却したいとお悩みの方もいるはずです。
この記事ではマンション改修工事の勘定項目と修繕費に該当しない工事の例、修繕費に該当する工事の例を紹介しています。最後に、改修工事を修繕費に計上する場合の確定申告の流れも解説しています。
最後まで読めば、マンションの改修工事を適切に費用計上する方法がわかるでしょう。
改修工事をした際の勘定項目とは
マンションの改修工事を正しく仕分けするために、修繕費・資本的支出の見分け方を覚えておいてください。
- 修繕費
- 資本的支出
まずは修繕費と資本的支出の概要を把握しておきましょう。
修繕費
修繕費とは、マンション経営において必要な建物の修繕に対する出費です。勘定項目が修繕費だった場合は、確定申告時に一括で費用として計上できるため、所得総額を抑えるメリットがあります。
ただし、修繕費とはあくまでマンションの価値を維持するためのものです。そのため、価値が向上する場合は修繕費ではなく、次の項目で解説する資本的支出に仕訳されます。
資本的支出
資本的支出とは、マンションの耐久年数・資産価値を高めるためにおこなわれた工事への出費の勘定項目です。
修繕費と異なりマンションに新たに手すりを付帯したり、配管をすべて取り替えて耐久年数が延長される場合は資本的支出となります。
修繕費と資本的支出は見分けが難しい勘定項目ですが、金額ではなく原則マンションの資産価値の向上につながるかどうかで判断します。
修繕費に該当しない改修工事の例
修繕費に該当しない改修工事の具体例を紹介します。
- 物理的に建物に機能を付加する工事
- 用途変更のための模様替え・改装工事
- 機械の性能を向上させる工事
自己所有物件の改修工事の勘定項目がわからない場合に、似たケースを参考にして仕訳してください。
物理的に建物に機能を付加する工事
マンションに機能を付加するための改修工事は、修繕費ではなく資本的支出です。機能を付加することでマンションの資産価値が向上するため、修繕費に該当しません。
根拠として、国税庁が発表している「No.5402 修繕費とならないものの判定|国税庁」を引用します。
1 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額
2 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額
3 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額
【引用】No.5402 修繕費とならないものの判定|国税庁
上記に照らし合わせると、避難用の階段の取り付けは資本的支出に該当します。その他ゴミ集積所を新規で付加する、敷地内に新たな建物を建築する場合も修繕費ではありません。
用途変更のための模様替え・改装工事
マンションを用途変更するための模様替え、改装工事は資本的支出に該当します。用途変更によって価値が向上する可能性があるためです。
たとえば、住居用マンションをオフィス用に模様替えして新たに法人に貸し出す場合などは、資本的支出に計上します。
マンションの用途自体を変更する目的でおこなわれる改装は、修繕費にあたらない点に注意してください。
機械の性能を向上させる工事
マンションの付帯設備機能を向上させる工事は、資本的支出に該当します。マンションの設備機能が向上するため、資産価値も上がるとみなされるためです。
たとえば給湯器を取り換える際に、同等ランクのものに交換した場合は修繕費ですが、上位ランクの給湯器に変更した場合は資本的支出となります。
機械の取替や改修によって資産価値が向上する場合は、修繕費に計上できません。
改修工事を修繕費として計上できる場合
具体的に修繕費に該当する改修工事の例を紹介します。
- 所有資産の修理・改修のための工事の場合
- 老朽化した設備のみ改修工事する場合
- クロスの張り替え工事
- 経年劣化による屋上防水工事
- 外壁の塗り替え
- その他設備の取り替え
マンションの維持管理に必要と認められる場合は、修繕費に計上できます。具体例を参考にして、自身がおこなうマンション改修工事の勘定項目を判断してください。
所有資産の修理・改修のための工事の場合
マンションの共有部分の修理や改修のための工事は、修繕費に該当します。修理は価値の向上ではなく、維持に該当するためです。
たとえば玄関ロビーのドアが故障した場合の取り替え工事は、原状回復にあたるため修繕費に該当します。
老朽化した設備のみ改修工事する場合
経年劣化により故障あるいは劣化した設備の改修は、修繕費として計上できます。マンション内の劣化したタイル、洗面台の取替工事は、マンションの原状回復のための工事です。
そのため資本的支出にはあたらず、修繕費に計上できます。
クロスの張り替え工事
マンション室内のクロス張り替え工事は、修繕費として計上できます。壁紙の張り替えは建物の維持管理に該当するため、資産価値の向上には該当しないためです。
国税庁も、アパートの壁紙張り替え工事について、以下の見解を示しています。
建物取得時の壁紙の取得価額は、建物の取得価額を構成するものですが、本件の壁紙の張替えは、建物の通常の維持管理のため、又はき損した建物につきその原状を回復するために行われたものと考えられますから、それに要した費用はその全額を修繕費とするのが相当と考えられます。
【引用】アパートの壁紙の張替費用|国税庁
経年劣化による屋上防水工事
建物の経年劣化による雨漏れを防ぐための防水工事も、修繕費に計上できます。防水工事は資産価値の向上ではなく、維持管理工事に該当するためです。本来マンションの屋上には防水工事が施されていますが、経年劣化で防水工事の効果が低くなります。
マンションの防水機能を回復させるための工事であるため、防水工事は修繕費です。
H3:外壁の塗り替え
マンションの外壁の塗り替え工事も、修繕費として認められます。ただし、外壁の塗り替え工事の目的によっては資本的支出となるため注意が必要です。
修繕費にあたる塗り替え工事と、資本的支出にあたる塗り替え工事を比較してまとめました。
修繕費にあたる外壁の塗り替え | 資本的支出にあたる外壁の塗り替え |
・外壁のひび割れの補修 ・外壁の剥がれの補修 ・建物の美観を維持するための塗り替え ・災害によって毀損した外壁を 補修するための外壁塗り替え | ・外観を向上させるための塗り替え ・耐久性の高い塗料への塗り替え ・魅力的な外観に変えるための塗り替え |
原則として価値を維持するための塗り替え工事は修繕費、建物の価値を向上させるための塗り替え工事は資本的支出です。
その他設備の取り替え
マンションにもともと付帯していた設備の交換は、修繕費に計上できます。ただし、同等ランクのものへの交換に限られる点を忘れないようにしてください。
より価値の高い設備への交換は、資産価値が上昇する可能性があるため、費用とは認められません。仮に費用計上しても、税務署で却下されて確定申告のやり直しになる可能性があるため注意しましょう。
改修工事を修繕費として計上する場合の確定申告の流れ
改修工事を修繕費として計上する場合の確定申告の流れを簡単に解説します。
- マンション経営の総所得の計上
- 年間の経費を合計
- 費用の中から修繕費・資本的支出を分類する
- 決算書の作成
- 確定申告用紙の作成・提出
決算書の作成方法がわからない方は、「令和4年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」を参考にしてください。
また確定申告書のフォーマットは、確定申告書等の様式・手引き等(令和4年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)からダウンロード、書き方を確認できます。
確定申告はe-taxからも可能です。税務署へ行く時間がない方は、オンラインで申告しましょう。
まとめ
改修工事は修繕費に計上できます。しかし、改修工事の目的によっては資本的支出に該当するため、費用計上できません。
マンション売却価格をなるべく上げるための改修工事は、資本的支出と見なされる可能性があります。
確定申告の際に費用判断が難しい場合は、媒介契約を結んでいる不動産会社に相談してアドバイスももらえます。または、税理士に相談して適切な費用計上をおこないましょう。